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クローン病&潰瘍性大腸炎通信-<1>

潰瘍性大腸炎とクローン病について(免疫学的立場より最近の知見)

【はじめに】  

潰瘍性大腸炎とクローン病は炎症性腸疾患(IBD)として一括して論じられ、従来より混同して論じられる傾向にあり、特に欧米ではその傾向が強かった。診断が困難な症例もあるが、注意深く経過を追えば確定診断は可能なことが多い。最近の腸管免疫学の研究により、潰瘍性大腸炎はIL-7が関与したTリンパ球細胞成熟過程障害に基づく自己免疫異常が、クローン病では単球/マクロファージ系細胞の機能異常と腸管局所での過剰免疫反応が指摘されつつある。しかし、すべての症例を免疫学的機序だけで説明するのは困難であることも判明してきている。病態については、特定遺伝子を操作し発現しなくしたノックアウトマウスや特定遺伝子を移入したトランスジェニックマウスにおいて腸炎の発生が示され、種々の免疫学的欠損によって腸管の慢性炎症が生じることが示され、T細胞の役割が明らかとなった。

1.潰瘍性大腸炎とは  

潰瘍性大腸炎は、免疫学的には、大腸粘膜のみが選択的に障害されること、患者血清中に自己抗体が高率に存在すること3)、他の自己免疫疾患を合併することが多いことなどより、標的臓器が大腸である自己免疫疾患と考えられてきた。大腸粘膜障害機序として、粘膜内T細胞の機能異常とそれに伴う抗体産生性B細胞の活性化が、自己抗体である抗大腸抗体の大腸局所での産生を促し、病変形成に関与していることが考えられ、cytotoxicT細胞による抗体を介さない細胞障害機序も同時に働き、大腸上皮細胞障害に関与していることが証明されつつある。サイトカインについては、基本的に活性化マクロファ−ジより産生されるほとんどのサイトカイン活性は、活動期の組織において上昇しているといえる。また、従来より本症患者血清中に存在していた”胸腺増生因子”がIL-7であり、大腸上皮細胞が産生していることが明かとなった。IL-7はリンパ球の分化成熟に関与するサイトカインであり、今後の追究は病因に迫る一つの鍵になることが考えられる。しかし、すべてのタイプの潰瘍性大腸炎を考えると、自己抗体である抗大腸抗体については病因としては否定的見解もあり、本症における自己抗体陽性率は疾患の病勢と必ずしも相関しないこと、自己抗体が炎症の結果生じた2次的なものの可能性が否定できないこと、ガンマグロブリン大量療法の有効率が低いこと、全く再燃しない初回発作型の潰瘍性大腸炎が存在することなど、すべて自己免疫疾患で説明することは困難であると思われる。潰瘍性大腸炎を潰瘍性大腸炎症候群として免疫的機序以外にも感染、虚血などさまざまな要因を考える必要があると思われる。

2、クローン病とは    

病因病態は未だ不明であり、これまで、遺伝的素因、感染、食餌因子、腸管の微小循環障害などがあげられてきた。遺伝的素因については、人種間で発生頻度が異なること、同胞や近親に発生例のあること、HLAの検索にてDR−4、DRw53などが多いとされていることなどより、なんらかの免疫遺伝学的な規定が想定され、家族内発症例でリンケージ解析を用いて疾患特異性遺伝子の追求がなされつつあるが、未だ結論は得られていない。感染説については、これまでtransmissible agent, virus, mycobacteriumなど報告されているが、特定の感染は断定できていない。AIDS患者におけるウイルスやmycobacterium持続感染が本症類似病変を呈した症例もあり、免疫低下による何らかの持続感染症が病態を形成している可能性もある。また、近年の麻疹ウイルスの持続感染とそれに基づく血流障害説は興味あるものであるが、否定的な見解も多い。食餌因子については食生活の変化によってクローン病患者が増加していること、成分栄養療法が有効であることなどより、病因および増悪因子になんらかの食餌抗原の存在が考えられが、特定の食餌抗原は未だ明かでない。免疫学的には、腸粘膜局所の検討で、初期病変とされるアフタ様病変や肉眼的非病変部で活性化された単球・マクロファージ系細胞が増加しており、活性化マクロファージの炎症への関与が示唆される。病変局所の大腸上皮には、HLA-DR抗原がびまん性に発現されており、本症患者でAIDS発症後に腸病変の改善がみられたり、臨床的に抗CD 4抗体が治療に有効なことなどより、Class II抗原を認識するCD4陽性T細胞が炎症を引き起こしている可能性も示唆される。最近、本症の回腸末端部の病変部より樹立したT cell lineにおいて、多様なT細胞リセプター(TcR)のうち、Vb5.2を持った細胞群が特異的にexpansionしていることが明らかとなった。何らかの特異抗原がある特定のT細胞を刺激し、この刺激されたT細胞によりマクロファージが活性化されている機構が想定され、病因解明の糸口として注目されている。サイトカインについては活性化マクロファ−ジより産生されるサイトカイン活性は、クローン病の活動期の組織においても上昇しているといえる。すなわち、免疫学的には本症は種々の腸内抗原に対する局所の免疫過剰反応が炎症性サイトカインのネットワークの悪循環を引き起こし炎症を持続するものと考えられ、本症の新しい治療法として、抗CD4抗体、CD4 analogue、単クローン性抗TNF-αキメラ抗体、炎症抑制サイトカインであるIL-10など、CD4陽性T細胞や活性化マクロファ−ジより産生されるサイトカインをターゲットとした免疫統御療法の開発が進みつつある。しかし、病因病態は免疫異常だけでは説明し得ず、アフタのみのクローン病や、高齢者の症例は病因を異にする可能性があり、感染や消化管粘膜の循環障害など種々の因子が関与しあっていると考えられる。

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