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クローン病&潰瘍性大腸炎通信-<5>

夏に向かって   

潰瘍性大腸炎とクローン病患者さんにとって夏は季節としては症状の増悪が多い季節ではなく、比較的過ごしやすいと思います。しかし、水物を多く摂りたい季節ですので、先月述べた食事については注意が必要です。疲労の蓄積と炭酸飲料やビールの飲み過ぎに注意しましょう。今月は、最近、治療薬として使われることもある免疫抑制剤について少しお話しします。これは、潰瘍性大腸炎、クローン病とも免疫学的異常が関与しており、この観点から免疫抑制剤の投与が試みられているからです。名前だけをみると恐ろしい薬のように思われますが、専門医が深い理解の上で患者さんに充分な説明をした上で(インフォームド、コンセント)使用すれば決して危険な薬ではありません。 

(1)潰瘍性大腸炎   

潰瘍性大腸炎の多くは長期経過も良好となってきてますが、一部にステロイド離脱困難な例、難治症例も存在します。こういった症例に対して、免疫抑制剤の投与が試みられています。外国では1966年より試みられ長期にわたる多数例での有効性が報告されています。我々も1973年より6-MP の少量投与を行っており臨床経過を詳細に追跡できた症例で検討すると緩解維持目的に使用した21例中14例(67%)で緩解維持が可能であり、20例(95%)でステロイドの減量が可能となり、うち13例(62%)でその後のステロイド中止が可能でありました。難治例では15例中11例(73%)で症状の改善がみられ、13例(87%)でステロイド減量が可能となり、6例(40%)で中止できました。しかし、単独では、活動期における短期的な効果は明らかではありません。6-MP少量投与では効果の発現は比較的緩徐であり、1〜2週で効果がみられる例もあるが、緩解までに平均1〜3ヶ月を要することが多いようです。以上から、潰瘍性大腸炎への免疫抑制剤の適応は、(1)緩解維持、(2)緩解導入後のステロイド離脱困難例、(3)難治例に限るほうが良いと考えています。

(2)クローン病   

クローン病では難治性の瘻孔に難渋する症例もまれではなく、小腸病変は栄養療法により緩解導入率は良好となってきましたが、普通食にもどす過程で容易に再燃がみられるという問題があります。クローン病に対しての免疫抑制剤の治療は外国では否定的な報告がなされたこともありますが、その報告は、治療期間が短く、他の薬剤をすぐ中止するなど、検討方法が適切でないことが指摘されています。その後、長期にわたる使用経験の報告では、高い有効性と安全性が示されています。 我々もクローン病に対し6-MPの少量投与を行っており、治療抵抗性の14例うち10例(71%)で改善がみられ、さらに瘻孔合併例10例のうち5例(50%)で閉鎖、2例(50%)で改善をみています。クローン病における免疫抑制剤の適応は、難治性の瘻孔、ステロイド抵抗例およびステロイドの離脱困難例、さらに緩解導入後の緩解維持であると考えています。

(3)問題点   

免疫抑制剤の欠点としては作用の発現が比較的緩徐であり、急性増悪期、活動期での短期間内での効果が望めないことがあげられます。副作用としては骨髄抑制、消化器症状、脱毛などがありますが、容量依存性であり、可逆性であります。我々は6-MPの少量投与により、潰瘍性大腸炎とクローン病あわせて脱毛3例、白血球減少4例、高アミラーゼ血症2例を経験していますが、いずれも投与開始後早期に出現し、重篤なものはなく投与中止によりいずれも正常化しています。一方、免疫機能の抑制による悪性腫瘍の発生を懸念し、免疫抑制剤の投与に消極的な意見があるのも事実です。しかし、悪性腫瘍を発生した例で明らかな免疫抑制剤の投与との因果関係を認めたとする報告はありません。両疾患が根本的には良性疾患であることより、今後も注意深く検討すべき問題であり簡単には結論すべきでないとないと考えてます。

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