1.膵臓から分泌される、インスリンという血糖を下げるホルモンの働きが悪くなるためにおこります。ホルモンの働きが悪くなる原因には下記の2つがあり、従って2種類の糖尿病があると考えられています。
*1型糖尿病:膵臓でインスリンが作れなくなる。またの名をインスリン依存型糖尿病
*2型糖尿病:インスリンを作ることはできるが、インスリンが効きにくい。またの名をインスリン非依存型糖尿病
1型糖尿病は自己免疫疾患の一つで、何らかの原因でインスリンを作るランゲルハンス島に対する抗体ができてしまい、インスリンが作れなくなってしまいます。
2型糖尿病はいわゆる生活習慣病といってよく、肥満、過食などが原因ではないかといわれています。日本人の糖尿病のうち90%以上は2型糖尿病と考えられています。しかし最近、発病当初は2型糖尿病と考えられても、徐々にインスリンが作れなくって1型糖尿病に移行する場合があることがわかってきており、いずれにしろ、きちんと経過を病院でみてもらうのが大事です。1型糖尿病と診断するにあたってはGAD抗体、IA-2抗体、ICAなど血液検査でわかる指標があります。
2.空腹時血糖が140以上あれば糖尿病と診断されますが、その頃は、症状がありません。血糖がさらに上がり、200より多くなって初めて典型的な症状(のどが渇く、尿が多い、体がだるい、体重が減る)が出ます。こんな症状がでたら、緊急入院の状態です。
3.糖尿病という名前ですが、尿に糖が出るのはかなり血糖が高くなってからです。(個人差もありますが、血糖が160をこえてから、やっと尿糖が陽性になることが殆どです)つまり尿糖が陰性だから安心、というのは間違いで、常に血糖およびヘモグロビンA1C(あとで詳しくお話します)に注意して経過をなければいけません。
4.糖尿病はなおりません。それどころか、放置すると病気は知らないうちに進行し、様々な合併症がおきてきます。
糖尿病が長期になって、何といってもこわいのは、この合併症です。これらによって不自由な生活をしいられることになります。
1.網膜症
初期からきちんと眼の検査や治療をうけていれば、眼底出血をほとんど防げます。
---「網膜症は今のところありません。」と言われた方へ 今なにもないからといって安心しないでください。少なくとも1年に1回は眼科を受診してください。
---「網膜症が既にあります。」と言われた方へ 眼科医の指示に従って、通院してください。
2.腎障害
初期の腎症は通常の検尿ではタンパク尿も陰性で全く無症状です。進行するとタンパク尿がでできて、足がむくんだりして、そこで初めて自覚症状がでます。さらに進行すると尿毒症で透析が必要になったりします。
近年、極く少量のタンパク尿(微量アルブミン尿)を検出できるようになり初期の腎症が診断できるようになったので、普通の検尿とあわせて、定期的に検査が必要です。
3.神経障害
耐えがたいしびれや痛みが出現することがあります、特にアルコールを中程度以上のむ人には起りやすいといわれています。また、自律神経障害として、尿の出が悪くなったり、立ちくらみ(寝ているときと立ったときの血圧がすごく違う)、インポテンツ、便秘などが現れます。
4.動脈硬化によるもの
心筋梗塞、脳梗塞、等があります。これらを防ぐには糖尿病のコントロールも大事ですが、血圧、コレステロールの管理や禁煙も同じくらい大事です。
5.足の合併症(壊そ)
長期に糖尿病の悪い状態が続くと足の血管がつまりやすくなります。喫煙している方は特にそうです。また足の感覚がにぶくなっているとちょっとのけがをしても気がつかないことがあります。このため、けがを放置しているうちに化膿し、血のめぐりが悪いために治りにくく、足の先から壊死をおこしてくることがあります。これらのこと防ぐには、
・血糖を良い状態に保ちましょう。
・くつずれがおきないように、足にあった靴をはきましょう。
・ふだんから足や爪を清潔にするように、お風呂でよく洗い、自分の目で足の状態を確認しましょう。深爪はさけましょう。
・水虫、魚の目、いぼ、たこ等は自分で治療したり、けずったりせず、皮膚科を受診しましょう。
・冬にはカイロによる低温やけどに気をつけましょう。
(特に神経障害で足の感覚が低下している方は要注意です。)
6.合併症を起こしにくくするには?
食事療法を軸とした治療を行い、血糖、HbA1C(ヘモグロビンA1C)を下げる。
脂肪、塩分のとりすぎに注意する。 禁煙、および原則として禁酒。
(重要) HbA1Cって何でしょう?
一ヶ月くらいの血糖の平均値を反映します。当院の正常値は5.8%以下です。ワンポイントで空腹時血糖だけみていると、食後の高血糖をみのがします。全体的に血糖が高いかどうか評価するのに最適です。検査の数日前からだけ食事制限をしたところで、HbA1Cをみれば過去1ヶ月の糖尿病の状態は一目瞭然です。
1.体重
標準体重に近づける。
標準体重=身長(m)x身長(m)x22 (例)身長が170
cmの方の場合は 1.7 x 1.7 x 22 = 64 kg
2.血糖
空腹時 :原則として120以下
食後 :原則として160以下
ヘモグロビンA1C :7.0%以下 を目指しましょう。
ヘモグロビンA1C9.0%以上は入院したほうが良いでしょう。
妊婦さんの場合は血糖の正常化が基本です。(空腹時100以下、食後120以下)
3.血圧 原則として130/85以下
4.総コレステロール 220以下
(ただし、善玉、悪玉どちらのコレステロールが多いかによって変わってきますので主治医に確認してください)
食事療法、運動療法、薬物療法がありますが、食事療法が基本です。 運動で減らせるカロリーはせいぜい2単位から3単位(160から240カロリー)で、ビールを飲んだりしたら、それで帳消しです。運動だけでは糖尿病の治療はできないし、減量の効果もありません。 薬物療法も食事療法が守れた上でないと、肥満を助長させます。
1.食事療法
・標準体重x25カロリー (例)身長170 cm なら1600 カロリー
・肥満は糖尿病の大敵で、太って脂肪が多い人はインスリンの効きが悪いので、標準体重をめざしましょう。
・指示されたカロリーを3食に分け、バランスよくとりましょう。
・合併症予防のため、脂肪、塩分のとりすぎに注意しましょう。
・アルコールはさけましょう。
2.運動療法
医師の許可を得たうえで、行います。
運動の目的はインスリンの効きをよくする、体脂肪をへらす、善玉のコレステロールを増やす、などです。一日7000歩以上、または一回30分の汗ばむ程度の運動を毎日(少なくとも一日おき)行いましょう。
1型糖尿病の場合は運動でかえって血糖コントロールが乱れることがよくありますので、運動するときは主治医と相談してください。1型糖尿病の場合、30分ごとにジュース、クラッカー等でカロリーを補給しながら運動するのが基本です。
3.薬物療法
糖尿病は一生の病気です。 しかし努力次第で合併症もおこさず、天寿をまっとうすることもできます。
近視の方が眼鏡をかけていれば普通に生活できるように、糖尿病も食事を中心にした治療(=眼鏡)を続ければ、問題ありません。
医師はそのお手伝いをすることはできますが、 本当の主治医はあなた自身です。
内科:井上ゆか子
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