外来の裏話

カルテNo,24 老人の孤独な東京砂漠

患者
76才の老女
主訴
腰が痛い
ストーリー
毎日10回ぐらい電話が鳴る. 「先生,腰が痛いよ」「往診に来て」「歩けない」「もう,我慢できない」「〇〇先生はいつ来て下さるの?」「どうすればいいの?」「私は大丈夫ですか?」「何時に来て下さるのですか?」「死ぬかも知れない」..... これでは診療妨害,営業妨害である.受付の社員もうんざり. 山梨の田舎から長男が呼び寄せて一人で留守番しているらしい. 共働きの普通の家庭.自宅の前が医院なのに離れたこちらにばかり電話をかけてくる. 多分,その医院からもあきれたのだろう. 先日も騙されて(?)往診に行ったのが病みつきになったらしい. 寂しいから病院へ頼る癖を覚えてしまった. ある日,看護婦の嫁から電話があった.内容は往診に来ないで欲しいとのこと. 医学的に行く必要がないのは分かるが,冷たい嫁である. 寂しがる理由が分かった. きっと,嫁は山梨に送り返したいのだろう.
考察
老人の一人暮らしが社会問題になっているが,医療と福祉と家族の問題. 優しくしてあげるとますます甘えてくる老人性うつ病の典型的なタイプ. 自分がソシャルワ-カ-か医師かよく分からなくなってしまう事もしばしば. 元気なうちは生まれ育った,友たちの多い山梨でのんびり暮らして欲しい. この息子は親孝行か親不孝か判断に迷うが,医師は医師の仕事だけに専念したい. 今頃,きっとどこかの病院にまた電話をかけては嫁に叱られているのだろう. 往診をして貰える病院が減ってきたが,老人の増加とともに需要は高まりつつある. 当院では24時間無料電話相談コ-ナがあるが,国はもっと力を入れて欲しい. 119番の乱用による救急車の無駄な出動回数が減るかも知れない. 老人の医療費が削減出来るかも知れない. 国が出来なければ,民間でも良いから会員制の医療相談センタ-を国は認めるべきだ. もちろん,厳格な審査を経て. 老人医療や福祉に興味を持っているボランティアの方も多いと思う. 規制緩和,規制撤廃の波が医療界にも必要である. 医療界は決して聖域ではなく,国民を守る国民のための身近な存在であるべきなのである.厚生省は現場の声を汲み取る努力をしない限り,怠慢省,更正省と言われても仕方がない.