外来の裏話
カルテNo,25 がんの告知は必要か?
- 患者
- 75才女性,元看護婦
- 主訴
- のどが痛い
- ストーリー
- 「数ヶ月来,のとが痛かったが我慢していました.ひどくなってきました」と言って来院.
診ると明らかに腫瘍が甲状腺に認められ,精密検査が必要と判断し,入院設備があるK病院外科のA先生に紹介した.
翌日,本人から「甲状腺ガンと言われました」とがっかりした様子.
「甲状腺ガンであっても今は治癒成績がかなり良い」と何度も説明したが,ショックを隠しきれない様子.
一週間後体重はめっきり減り不眠と食欲低下の他,心理性と思われる全身の痛みが出現し,再び来院.
「手術が予約でいっぱいで1ヶ月先とのことですが,どんどん転移しているのではないか」との訴えであった.
文献を見せながら予後の良いガンで心配はないと説明しても「A医師から手術後は声が出なくなる可能性があると言われ不安です」とのこと.
やむを得ず,A医師に断り,国立がんセンタ-のM医師に紹介し,手術をして貰う事になった.
さらに,6ヶ月後手術は無事終わり,何事もなかったかのように元気になった事は言うまでもない.
- 考察
- A医師の無責任な告知がなかったら,不必要に苦しまずに良かったと考えられる.
告知にもその方法が問題である.
初診で「ガンです」といきなり言われると一般的には死刑宣告であろう.
少なくとも本人に告知の前に紹介元の医師に報告しなければならない.
甲状腺ガンの予後,治療法など何にも説明されていなかった.
当院では患者さんのタイプによって告知する事にしている.
知る権利は当然であるが,相手には家族も人権もあるので総合的に判断すべきである.
基本的には告知は必要であるが,告知の方法を誤ると治療の妨げになる.
本症例はがんそのものよりも不必要な精神的なケア,不眠,栄養不良,あらゆる痛み止めが無効な全身の痛みなどで術前の安定した体調を維持する事に無駄な努力が払われた.
一度失われた信頼は回復できないと思って良い.
医師は高い所で患者を診るのではなく,相手の立場に立って言動するトレイニングと教育が必要であろう.
その最もわかりやすい測りが[ガンの告知とその方法]と言えないだろうか?.
今の偏差値教育に依存してきた医療教育に革命が必要である.