外来の裏話
カルテNo,34 命の恩人
- 患者
- 58才のすし屋店員
- 主訴
- 息切れと足の浮腫
- ストーリー
- 開業したばかりの時,近医で治療を続けていて改善せず来院 「助けて下さい,息が出来ません」
足はむくんでおり,心電図はかなり乱れ,血圧はかなり高い.
診断名は高血圧と不整脈による重症の心不全であった.「すぐ,入院です」と言うと「仕事があるからどうしても入院は出来ません」
やむを得ず,毎日点滴と心電図でしばらく通院させ,自宅の電話番号も教えて管理することに.
数日後,すっかり元気になり遠くへ転職した後もバイクで1時間,10年来先生は命の恩人といいながら通っている.
- 考察
- この言葉ほど,医師として嬉しいことはない.
また,この言葉ほど責任を持たされる事はない.
僕にはこの言葉を言って下さる患者さんが自慢ではないが数人いる.
臨床医に求められる事は的確な診断と治療に尽きる.
仕事柄臭い,不潔,うるさい等の事情はあるが,臨床医には感情は要らない.
助けて貰った後の恩を大切にして下さる方は少なくない.
この様な患者さんは臨床医に取っては宝物と考える.
言葉に甘んじて治療をおろそかにしてはいけない.
診察の度に先生は命の恩人と言われるが当たり前の事をしただけ.
不幸ながら,治療が長引いたり,悪化するときは転医を勧める.
治療方針の違う意見を聞くことも大切なのだから.
でもこの方のように信者にはならないで欲しい.
68才のおじいさんが1時間もかけて通院する事は大変心配である.
医師は神様ではないのである.