外来の裏話
カルテNo,4 お尻に蓋をする止痢法の末路
- 患者
- 67才の男性
- 主訴
- お尻が痛い
- ストーリー
- 大変困った顔をして来院.
お尻から出て来ないんです.何を入れたのですか?と尋ねると,フィルムのケ-スである.
どうして入れたかと聞くと,どうしても下痢が止まらず,忙しかったのでつい....
うつぶせにさせて手袋をしてまず,肛門を覗いて見るとこれは大変.
本人の訴えは本当であった.運悪く,ケ-スを逆さまに入れた為,肛門の出口の肛門括約筋に引っかかって出てこない.見えているから悔しい.
コッヘル(外科手術用の鋏)で引っ張るとかえって肉に食い込んで出血してしまう.
痛がるのでキシロカイン ゼリ-(粘膜麻酔剤)を使って滑りやすくしてもう一度.
二人の大人が他の患者さんの事をすっかり忘れて大声を上げながら悪戦苦闘50分間.
これこそがまさに涙と血と汗と臭いまみれの醜い男の格闘であった.
結局はあきらめて国立某病院へ紹介し,入院の上,麻酔下でようやく摘出した.
- 考察
- 処置している間,この患者を他の先生に診せて再び恥ずかしい思いはさせたくはない.
保険点数は一体どう請求すればいいのか?
今,俺は医療行為をやっていると言えるのか?
私たち二人のこんな格好を他人に見られたらどうしょう?
などなど...複雑な気持ちであった.
結局,大病院で入院手術になったのだから無理もない.
下痢を止める目的で異物を肛門に挿入すると言う大胆かつ愉快な発想にはただ尊敬するのみである.