Q:25歳の息子が潰瘍性大腸炎の患者です。サラゾピリンで治療を受け、現在は寛解期です。この3カ月の間に、一度ずつですが、電車に乗っているときに突然体の力が抜けて気分が悪くなり、意識を失ってしまいました。20~30分ほど休むと回復しました。主治医から「てんかんの可能性がある」と言われ検査を受けています。潰瘍性大腸炎の方には、てんかんを合併する人が多いと聞いたのですが、関係はありますか?
A:潰瘍性大腸炎は大腸だけの病気ではなく、全身にさまざまな合併症を伴うことがあります。ただし、てんかんは潰瘍性大腸炎の代表的な合併症ではありません。
もし息子さんにてんかんがある場合は、偶然の合併である可能性が高いと考えられます。
潰瘍性大腸炎が悪化している時期には、血小板が増加し、血液が固まりやすくなることがあります。これにより血流が悪くなり、一時的に脳の血管が詰まってしまう「一過性脳虚血発作(TIA)」のような状態が起こることがあります。
ただし、息子さんは現在寛解期とのことですので、そのような血管障害による症状の可能性は低いと思われます。
てんかんとの関連については明確な医学的根拠はありません。主治医の先生が言われた「潰瘍性大腸炎の方はてんかんが多い」というのは、こうした一時的な脳血流変化のことを指しているのかもしれません。検査結果をもとに、神経内科でも詳しく相談されると良いでしょう。
Q:潰瘍性大腸炎の状態について、医師から「中の下くらい」と言われました。現在は寛解期で、普通に生活できています。以前は低残渣食で体重が10kg以上減少しましたが、今は元気です。サラゾピリンは今は服用していませんが、長期服用で薬が体に蓄積することはありますか?また、内視鏡検査はどのくらいの頻度で受ければよいでしょうか?
A:まず食事についてですが、潰瘍性大腸炎の急性期には下痢を悪化させないために低残渣食(食物繊維の少ない食事)が推奨されます。しかし、症状が落ち着いている寛解期であれば、特に制限は必要ありません。
「これを食べると下痢しやすい」と感じるものがあれば避け、それ以外はおいしく食べることが大切です。
次にサラゾピリン(スルファサラジン)についてですが、この薬はもともと関節リウマチの治療薬として開発されたもので、長期使用による蓄積作用は報告されていません。
潰瘍性大腸炎でも10年以上服用している患者さんが多くいますが、体内に蓄積するような副作用はほとんど認められていません。
初回発作型(初めての発症で再燃のないタイプ)の場合、1〜2年服用して症状が安定していれば、主治医の判断で一時的に休薬することも可能です。
ただし、再燃した場合は再度長期内服が必要になりますので、勝手に中止せず医師の指示に従ってください。
内視鏡検査については、症状が安定していれば頻繁に行う必要はありません。
ただし、薬を中止するタイミングや、出血が見られるときには腸の状態を確認する目的で行うことがあります。
また、発症から8〜10年以上経過した場合は、がんの早期発見のためにも1〜2年に1回程度の定期的な検査が推奨されます。
Q:私は、注腸検査を年に1回行っています。今は緩解期の状態だと思います。内視鏡は1~2年に1度と説明されましたが、内視鏡と注腸では、違いがありますか。注腸では、大腸癌の発生はわからないのでしょうか。内視鏡をやらなければいけないのでしょうか。
A:一般の大腸癌の場合は、ポリープを含め腸粘膜が盛り上がってきますので注腸検査で発見されることが多いのです。しかしながら潰瘍性大腸炎の場合は少しやっかいで、盛り上がってくる癌もありますが、困ることに全く平坦なところに癌が発生していることが、潰瘍性大腸炎の癌化の特徴と言われています。これは残念ながら今のところ注腸検査では見つけられません。内視鏡でも見落とされることが多いくらいです。
ではなぜ内視鏡検査が必要かというと、内視鏡下では組織を採取でき、病理組織学的に調べることが可能であるからです。組織を採って病理学的に前癌状態(ディスプレイシア)が発見できれば、癌の早期予測にもつながり、重要な情報が得られます。したがって、内視鏡検査はとても大切と考えられます。
Q:それは、1~2年に1度でよろしいですか。
A:まだ統一した見解はありませんが、おそらくそれくらいの間隔で行っていれば、まず問題はないだろうと思います。心配な方は年に1回行うのも良いでしょう。
Q:34才の息子で現在会社員ですが、2年程前に発病して、それからずっと薬を常用しています。最近とくに下血がひどく、体重も極端に減りました。食欲はあるのですが、身につかないようです。それは最初に検査した時に全体的でなく部分的なものだからということだったのですが、最近特に悪い方に進んでいる気がします。潰瘍が移動するとか拡がっているようです。最初に全体的なものと部分的なものでは、潰瘍の性質が違うのでしょうか。それと薬を続けているのに体重が減ったり下血が出たりするのは心配なのですが、どうでしょうか。
A:病気が拡がるかどうかには難しい問題があります。その一つが「直腸炎の解釈」です。
直腸炎とは直腸だけに炎症があるもので、直腸炎のまま経過するケースも多く、少し異なる疾患とも考えられていますが、潰瘍性大腸炎の範囲に含まれています。なぜなら、直腸のみに限られていた炎症が上方へ拡がっていくことがあるためです。
病変が拡がると、直腸炎 → 左側大腸炎 → 全大腸炎へと進展することがあります。どのタイプの直腸炎が左側大腸炎に移行しやすいかはわかっていません。潰瘍性大腸炎では通常、直腸から連続的に病変が見られ、部分的に「ここだけ」「あそこだけ」という発生はありません。したがって、他の病気の可能性も考慮する必要があります。
体重減少については、血便や粘液便があると、大腸粘膜から血液成分やタンパク質などが漏れ出て栄養が失われるため、食べても身につかないことがあります。つまり、食べても体重が減るということは病状が悪化している可能性があります。ただし、かなり重症でないと潰瘍性大腸炎で顕著な体重減少は起きにくいです。
Q:そうすると、食べても身にならないということは、それだけ病状が悪化しているわけですね。
A:そう考えられます。
Q:中途で薬を止めたことはなく、きちんと服用しているのですが、それでも悪化するのはなぜでしょうか。
A:潰瘍性大腸炎の経過には「初回発作型」「再燃緩解型」「慢性持続型」といったタイプがあります。このうち慢性持続型は治療をしても改善しにくく、難治性であることが多いとされています。
特に病変が拡がっていくタイプは治療が難しいことが多く、薬を服用していても悪化する場合があります。その際は、治療方針の見直しが必要です。
したがって、緩解維持療法を行っていても症状が悪化することはあり得ます。息子さんの状態については、主治医とよく相談されることをおすすめします。
Q:まだ発病して2~3年ですが、癌になることはありますか。
A:疫学調査による日本での潰瘍性大腸炎癌合併症例30数例の中には、1年目に発見されたとの報告もありますが、その詳細ははっきりしません。
日本よりはるかに症例が多い欧米での報告をみますと、早くて7年と言われています。
絶対にないとは言えませんが、発病2~3年ということは一般的にはないと思います。
潰瘍性大腸炎があることによって誘発されると推定される癌は、発病10年以内では稀と考えられています。
Q:今、27才です。4年前に全大腸炎型で発病しました。この1~2年の間にちょくちょく入院するのですが、その入院の原因として腹痛と血液検査のCRP値の上昇があります。医師から、痛みとCRP値の変化で入院することは潰瘍性大腸炎としては少し考えにくい、と言われています。その意見はどうでしょうか。
A:主治医の先生が「CRP値が上昇することが潰瘍性大腸炎としては説明しづらい」ということですか。
Q:潰瘍性大腸炎とつながっているのかどうか、はっきりわからないと言われるのです。
A:内視鏡像などを見ないと断定は難しい面がありますが、潰瘍性大腸炎の症状には発熱やるいそう(体重減少)などの全身反応が含まれます。
発熱などの全身反応が生じる際は、大腸の炎症が強く、局所のみでなく血液にも反映されるため、当然CRP値は上昇します。
CRP値が上がっていれば、相当強い炎症が大腸にあることを示しています。
Q:白血球の増加とは、また違う分野のわけですか。
A:必ずしも同じではありませんが、炎症の指標としては似たようなものです。
炎症が強くなると白血球は増え、CRP値も上がります。
Q:最近、CRP値が上がって入院したとき、その前に外来で内視鏡検査を受けたのですが、案外腸の状態はきれいだと言われました。
A:腸がきれいなら、CRP値上昇の原因は残念ながらわかりません。
Q:症状としては血便はでませんが、下痢になります。
A:全身反応が出る状態というのは、一般的にびらんよりも出血を伴いやすい潰瘍に近い状態です。
もし内視鏡できれいで血便もない場合は、別の要因を考える必要があります。
主治医の先生が言われるように、あなたの場合は潰瘍性大腸炎だけでは説明がつかない可能性があります。
Q:先ほどの質問の中で、血小板が増えて脳の血管が一時つまったのではないか、ということですが、血小板はどうして増えるのでしょうか。
A:血小板が増える理由は非常に複雑です。炎症が起きると出血を伴うことが多く、止血のために血小板が消費されます。
大腸全体に慢性炎症があると、長期間にわたって多くの血小板が使われ失われるため、体が補おうとして血小板を過剰に作ることがあります。
通常は20~40万/mm³ですが、70~80万/mm³以上になる方もおり、その場合、血管が詰まりやすくなり血栓性静脈炎が起こることがあります。
血栓性静脈炎は潰瘍性大腸炎の合併症の一つですが、非常に稀です。
Q:もう10年くらい経つのですが、内視鏡検査を全然受けていません。それくらい出血している可能性がありますか。
A:10年の経過があるのであれば、一度は内視鏡検査を受けた方が良いと思います。
患者さんは内視鏡検査を敬遠しがちですが、臨床的に必要とされる場合は受けることをおすすめします。
病状を知るうえで最も確かな検査法です。
Q:今の話にありました血小板が増えると静脈炎になるということですが。
A:正確には静脈炎というより、血液の流れが悪くなったり詰まりやすくなるということです。
Q:それで予防のようなことはできないのでしょうか。脳血栓になってしまったのですが、静脈炎にもなりました。
A:完全な予防は難しいですが、ある程度コントロールできる薬はあります。
血小板が過剰に増えた場合は、血小板の機能を抑制する薬を併用することも可能です。
ただし、血小板の働きを抑えると今度は出血が止まりにくくなるため、慎重なバランスが必要です。
Q:今のような状態でもですか。
A:入院するような状態であれば話は別ですが、入院しないで日常生活ができる範囲であれば、バランスの良い食事をとられるのが一番です。
下痢が心配であれば、繊維類を少し控えめにすることです。完全に止めるのではなく、少なめにすることが大切です。
食事は何かを止めるよりも、偏らずバランスよく摂ることが重要です。
また、食べるとお腹が痛む、下痢をしやすいなどの食品は避けましょう。
食事は楽しく、ストレスを溜めないことが大切です。腸はストレスに弱いため、正しい理解のもと、楽しくバランスよく食べることが肝要です。
Q:マストセルスタビライザーの副作用と、妊娠中の影響を知りたいのですが。
A:重大な副作用はほとんどありません。喘息治療にも長く使われている薬で比較的安全とされています。
ただし、新しい薬のため妊娠に関する臨床データは十分ではありません。妊娠を考えている場合は、この薬を使わずにすむ状態、サラゾピリンのみで維持できる状態が望ましいです。使用中の妊娠は避けましょう。
Q:ハウストラは一度なくなると元に戻らないのですか?
A:炎症の程度によって異なります。完全に元通りに戻る方もいますし、戻らない方もいます。
炎症が軽度であれば回復する場合もあります。内視鏡やバリウム検査の所見からも判断できますが、個人差が大きい点です。
Q:内視鏡を見ただけで潰瘍性大腸炎とわかるのですか?
A:典型的な所見であれば、熟練した医師は内視鏡だけで診断可能です。
組織検査(生検)は診断をより確実にし、炎症の程度を評価するために行います。
Q:潰瘍性大腸炎と診断されましたが、実は腸結核だったようです。治った後に潰瘍性大腸炎になることはありますか?
A:腸結核は潰瘍性大腸炎やクローン病と鑑別が難しい疾患の一つです。
結核が疑われる場合は細菌学的検査を行い、否定できない場合は先に結核治療を行います。
腸結核が治った後に潰瘍性大腸炎になることはありません。
Q:治療後、脂っこいものを食べると粘液が出ます。大丈夫でしょうか?
A:炎症がある時期は刺激物や脂っこい食事は控えた方がよいです。
腸結核は治療に時間がかかりますが、完治します。治癒後に潰瘍が残ることはありません。
Q:炎症部分は壊死してしまうのですか?
A:壊死しても再生します。ただし、腸に変形が残ることはあります。
腸結核では潰瘍性大腸炎よりも深く炎症が及びやすいですが、治癒は可能です。
Q:炎症がある場合、食べ物は潰瘍性大腸炎と同じように繊維や脂っこいものを避けるべきですか?
A:少量なら問題ありません。あまり神経質にならず、ストレスをためない範囲で調整してください。
Q:息子が潰瘍性大腸炎で通院中です。便の回数で病状を判断して良いでしょうか?
A:はい、便の回数や粘血便の程度は病状のバロメータとして重要です。
医師への報告にも役立ちます。
Q:ステロイドを半錠ずつ服用しています。続けても問題ありませんか?
A:10mg以下であれば、主治医の指示に従って継続して問題ありません。